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城を出た星達は街の中を歩いていた。
夜に街に出るのはエミルに禁止されていた。今回はエリエと一緒だが「絶対に夜外に出るのはだめよ!」ときつく言われたエミルの顔が脳裏をちらつく。
街は相変わらず人もまばらで、この時間になると街頭の明かりだけが寂しそうに人通りの少ない繁華街を照らしている。
そんな街中とは対象的に、宿屋の中だけが人が集まり、今が稼ぎ時と言わんばかりの活気に満ち溢れている。
(……楽しそうだなぁ~)
星はそう思いながら、そんな彼等を見て微笑みを浮かべた。
あの人の輪に入れれば、どんなに楽しいだろうっと感じていた。
宴会の真っ最中なのか、中ではお酒を持って忙しく各テーブルを動き回っているNPCの姿が映る。
まるでファンタジーの酒場を彷彿とさせるその光景に、見ているだけの星もなんだかワクワクしてきていた。だがその一方で、隣を歩いていたエリエは不機嫌そうに呟く。
「もう。なによビクビクしちゃってさ、バカみたい……帰ろうという意思はないの?」
エリエの言葉を聞いて、星も表情を曇らせた。
このゲーム世界に閉じ込められて、もう結構な時が経つにも関わらず。未だに外との交信はおろか、何らかの手が打たれた形跡もない。
だが、宿屋の中の人々はそれをどう思っているのかは分からないが、皆楽しそうに会話をしたり、お酒を飲んだりしている。
星のその表情はそれを一瞬でも『楽しそう』と思ってしまった自分に、嫌悪感を抱いたからに他ならなかった。
今を楽しく過ごすということは、現実の世界を過去にしてしまうことに等しい。
目の前の宿屋の中で楽しんでいる人達は、昼夜問わずダンジョンに潜って必死に現実世界へ戻る道を探している人達へのぼうとくと言ってもいいかもしれない。
現に、ギルドホールには些細な情報から重大な情報まで、数多くの情報が毎日寄せられている。
そういった情報はもちろん運営が機能していない今、プレイヤー達が必死に集めた情報なのだ――。
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