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老人は不思議そうに首を傾げると言い放つ。
「まあ、それも大熊の大牙を持ってこれればの話だがのう。フォッフォッフォッ!」
老人は笑いながら口の中に含んでいた煙を、まるで蒸気機関車が蒸気を吐く様に小刻みに吐き出した。
そのバカにしたような言い方が気に障ったのか、紅蓮は眉間にしわを寄せると小さく頷いた。
普段から感情表現が苦手な紅蓮だが、だからと言って性格が内気と言うわけではない。
いや、それどころか、誰よりも負けず嫌いでもある彼女にとって、その老人の態度はしゃくに障ったのだろう。
紅蓮は静かに頷くと、徐に口を開く。
「……いいでしょう。それでは近いうちにその大熊の大牙持ってきます。そうしたら、この短刀を直して頂けるんですね?」
「うむ。善処しよう」
頷き再び煙管を咥える老人に向かって、軽く一礼した紅蓮は足早に店を出た。
外では小虎と少女が待っていた。
おそらく。2人は紅蓮が知り合いに会いに来たのだと思い。気を利かせてくれたのだろう。
「――もう用事は終わった? 紅蓮ちゃん」
少女は扉から出てきた紅蓮に、にっこりと微笑みながら尋ねてきた。
紅蓮は無言で頷くと、言い難そうに口を開く。
「すみませんが、急用ができたので、少し別行動しましょう」
だが、少女は紅蓮のその申し出に、少し渋い顔をして告げた。
「う~ん。それは年長者として賛成しかねるかな~。それに、今は強い2人と別行動中だし。今はまとまって行動した方がいいと、お姉さんは思うな~」
「……お姉さん。姉さんはもう行っちゃったけど?」
「――はっ!? 紅蓮ちゃん!?」
小虎がそう告げると、少女慌てて辺りを見渡した。だが、そこにはすでに紅蓮の姿はない――。
動揺したのか、何故か少女は慌てて目を見開いてしゃがみ込むと地面を注意深く見つめる。
「紅蓮ちゃんが遂にミクロの世界に!?」
「――相変わらず失礼な方ですね……」
紅蓮の不機嫌そうな声をたどって少女が空を見上げた。
そこには、雲に乗った紅蓮が不機嫌そうに少女を見下ろしている。
「小虎、彼女の事はお願いしますよ?」
「おう! 任せておいてくれよ。姉さん!」
「はい。それでは頼みましたよ」
そう言い残すと、前を向き直した紅蓮はふわふわと空に溶け込んで消えていく。
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