ウォーレスト山脈

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「それはここを飛ぶ竜達だよ。君が巨大化して竜を倒してもいい。でも、その騒ぎを聞きつけ、敵が集まって来るというのは予想できるだろ? 少数で敵の拠点を奇襲するなら、敵の懐に飛び込むまでは騒ぎを起こさない方が賢明だ」 「……むぅ~」  不服そうなレイニールは膨れっ面をしながらも、仕方なくカレンの肩に戻った。  カレンはそんなレイニールの心境を察しているのか、余計なことは口にせずに「おかえり」とだけ優しく声を掛けた。  デイビッドは難しい顔をして、呟くように自分の考えを口にする。 「ここは安全だ。できれば、ここで少し体力を回復しておきたいな。今まで休みなく来ているし……このまま進んでも、戦闘になれば間違いなくこちらが不利になる」 「そうですね。俺もそう思います」  それを聞いて、後ろに居たカレンが話し掛けてきた。  突然肩を叩かれ、デイビッドが驚いた顔をしていると、それに構うことなくカレンが言葉を続ける。 「でも今のままじゃ無理です。だから俺は、この山脈地帯を抜けたらそこで休息を取ることを勧めますね。この中間で休息を取れば、敵に陸に渡る橋を抑えられる危険がある。そしたらエミルさん達と合流してもどうしようもなくなります」 「……確かに、自動修復システムが働き橋の破壊ができない以上は敵襲を受けた場合、敵は橋に戦力を集中する可能性が高い」  そのカレンの意見に、顎に手を当てながら頷くデイビッド。  だが、カレンの言うことは最もだ。全てが一本道のこの場所は敵に先回りされて抑えられたら、その場で歩みを止めるしかなくなる。  空からいきたくても、多くの飛竜が飛び交う空を無事に突破できる保証もない。  まずは地に足をつける場所に移動してから、休息を取る方が今の状況下では正しい判断だろう。 「そうです。別々に陽動を掛けるならこっちが囮になって、最悪はこの地帯に撤退すれば、後から来たエミルさん達と敵を各個撃破できます。撤退時はレイニールちゃんにお願いすれば、空から無事に帰還できるはずです。この場所を拠点に活動しているということは、ここに生息している飛竜をも防衛に利用しているでしょう。飛竜は周囲に入ってきた者を無差別に攻撃します。俺が敵ならみすみす殺られるような真似はしないはず。となると、飛竜に感知されない様に敵に飛行タイプ系の固有スキルを使用する者はいないと、俺は思っています……」  その的確なカレンの意見に、デイビッドは素直に感心する。  マスターと度をしていたからだろうか、カレンの意見はまるでマスターがそこに居るかの様だ――。
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