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大型のモニターの前で何やら忙しなく作業をしている覆面の男。
星は無言のまま、作業するその姿を見つめていた。だが、それは逃げるのを諦めたわけではなく。どうやってこの状況を抜け出すか考えていたからだ――。
しかし、逃げ出すと言っても、両手足を金属の枷で検査台に固定されている今の状況では、とてもじゃないが筋力補正程度の力でなんとかできる物ではない。
だからと言って、このまま捕らわれているつもりも、星には微塵もなかった。
(……このままじゃ、何をされるか分からない。早くこの金具をなんとかしないと……)
そう考えた星は、自分の手足を台に固定している枷を見た。
男に気付かれぬように、何とか手を引き抜こうとするのだが、案の定びくともしない――足の方も同様に、いくら力を入れても外れる気配すら見せない。
まさに絶体絶命とはこのことだ――。
(……どうしよう……)
困り果て小さくため息をつく星の脳裏に、突然母親の顔が浮かぶ。
おそらく。父親の話を聞かされたのが原因だとは分かってはいても、その心配そうな表情の母親の顔が妙にリアルで、星の胸を痛いほどに締め付けられた。
勝手にこんな事件に巻き込まれ、現実世界に戻れないということになれば、もう目も当てられない。
星の心の中に『何としても帰らなければ』という思いが沸き起こり、今までにないほどに身を捩らせた。
その時、けたたましい音とともに部屋全体が大きく揺れた。
「――な、なんだ!?」
モニターの前で操作盤を操作していた男が驚き、慌てて事態の把握に努める。
大きなモニターに監視カメラだろうか?いくつもの映像が表示された。その中に、土煙りを上げて突入してきた黄金の巨竜の姿が映し出されている。
「――レイ!?」
映像を見た星は驚きを隠せないといった表情で目を丸くさせた。
それもそうだ。今の星には、自分の目に映るそれが真実だとは到底認識できなかったのだ。
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