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夢の中で、エミルは学校の制服に身を包んでいた。
ついさっきまで、白銀の鎧をまとっていたのだ――この格好から見ても、ここが夢の世界であることは疑う余地もない。
セーラー服姿のエミルは、ただただ防波堤から沈んでいく夕日を見つめていた。だが、彼女がこの景色を見るのは初めてではなかった。
そう。それは忘れもしない――。
今から数ヶ月前。岬が死んですぐの時の頃だ――あの時のエミルは、何もかもがバカらしくなっていた。大事な人を失った喪失感というものか……。
この頃はもう。学校に行くのも、人と話すのも、生きることさえも無意味に感じた。
それもそのはずだ。学校帰りに毎日のように通っていた最愛の妹はもうこの世にいない。
その声も……体温も……笑顔も……何一つ。今の自分には感じられない。人が死ぬということは、本当にただただ【無】なのだ――。
記憶を思い返せば、後悔の念が頭の中を渦巻く。
あの時、もっとああしていれば……そんなどうしようもない感情が頭の中を駆け巡り、自分の胸を強く締め付ける。
この時のエミルもまた、その後悔というどうしようもない感情に苛まれていた。
夕日を受けて宝石の様に煌めく水面を見つめると、波と一緒にこのまま身を投げようか……そんな考えが頭を過る。
風とともに防波堤に打ち寄せる波を見ていると、まだ『他のどこかで岬が生きているのではないか?』なんていう空想が、今まさに押し寄せる波のように、自分の空虚な心を容赦なく抉る。
「……岬」
エミルは小さく呟く。
泣きたくても、もう数日間も泣き尽くし、涙も枯れてしまい泣くことさえできない。そんな、自分が惨めて仕方ない……。
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