エミルの夢

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 残されるということがこれほど辛く苦しいことだとは、予想もしていなかった。  なんとも言えない喪失感と、どこにもぶつけることのできない虚しさ。  そしてなんと言っても、無力で非力な自分に対しての怒り。もう二度と会うことができないという事実。  そんな当たり前のことが頭の中を駆け巡り『ここで死ねば、向こうの世界で……』なんて、ありえるわけのない想像すら浮かび、自分を【死】へと掻き立てる。  『あの子は本当に満足して逝ったのだろうか……』  岬が最後に書き記した手紙を手に、何度も自分の中にいる最愛の妹に問い掛けた。だが、記憶に成り果てた彼女は微笑みながら「お姉様」と呼ぶことしかしてくれない。  エミルは持っていた手紙を制服のポケットにしまい、自分の両手を見つめる。夢でもいいから――もう一度……もう一度だけ、この手であの子を抱き締めたい。その時、突如として不思議なことが起こった。  何の前触れもなくエミルの死んだはずの最愛の妹が、唐突に隣に現れたのである。それを見たエミルは驚きのあまりに言葉を失う……。  それもそうだろう。本来の記憶なら、この後自転車に乗って家路に着くはずなのだ。しかし、目の前には死んだはずの妹が、しっかりとエリエの方を向いて微笑んでいた。  横に立っている藍色の長い髪に透き通った黄色い瞳の少女が立っていて、エミルの顔を見つめにっこりと微笑んでいる。間違いない。そこにいたのは死んだはずの妹だ――。 「――姉様。心の中で何度も呼ばれたので来ちゃいました」  岬がそう言った直後、枯れ果てたと思っていたはずの涙が止めどなく溢れ出す。 「――みさきぃぃぃッ!!」  感情を抑えきれずに思わず、最愛の妹に抱きつくエミル。  一瞬通り抜けるのではないかなどという考えが沸き起こったが、そんなこともなくエミルの腕には懐かしい妹の体の温もりがしっかりと伝わってくる。  まるで子供のように泣きじゃくる姉の頭を、岬は優しく微笑んで撫でていた。  海に沈みそうな夕日が防波堤の波打ち際に座る2人を照らし、後ろのコンクリートの地面に長い影を作っている。
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