エミルの夢

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 岬は微かに頬を赤らめると、嬉しそうに俯いた。  その彼女の表情を見て、エミルの頭の隅にあった『もしかしたら偽物かもしれない』という疑惑は完全に吹き飛んだ。  2人は沈みかけの夕日を見つめ、その光りを受けて輝く水面と同じく滲んだ涙で目を輝かせている。  その静かで落ち着いた時間を、いつまでも過ごしたい……そう思っていたエミルだが、心の中で何かがざわめく。  それは、最後に岬が紙とペンで必死に書き記した『ありがとう』という言葉……その言葉をエミル自身。彼女に伝えられていたのかどうかが不安で仕方なかった――。 (あの時の言葉……今なら、この子に伝えられる。私のありのままの気持ちを……)  岬の横顔を見つめながら、躊躇っていたエミルだったが、意を決して叫ぶ。 「岬!」 「……んっ? なに? 姉様」 「あの、そのね。あの……」  純真無垢なその顔に、思わずエミルも言葉を詰まらせたじろいでしまう。  俯き加減に口籠る姉に、妹は無言のまま笑顔で応えた。その岬の表情を見つめていて吹っ切れたように、再び意を決してエミルが口を開く。 「岬! 手を繋ぎましょうか……」 (……って、ちがーう!!)  思いとは裏腹に出てきた言葉に、エミルは心の中で叫ぶ。  自分の不甲斐なさに自己嫌悪に陥りながらも、それは決して表情には出さない。それに対して岬は、一瞬驚いた顔をしたが「うん!」と嬉しそうにエミルの手を取った。 「姉様の手。凄く温かい」 「そ、そう?」  姉の手を握って満面の笑みで微笑む妹――その最愛の妹に思いを伝えられない姉。  これはこれで問題がある。家族なのだから別に恥ずかしがることもないはず。普段なら他愛もない言葉なはずだが、それが伝えられない。  いや、もし本当に伝えてしまったらこの時間も、彼女自身も消えてしまう。そんな気がしたからここ一番の場所で踏ん切りがつかなかったのだ。       だが、このまま彼女に何も言えないまま居ても、恐らく今後いつまでも後悔する。そう、例え夢であったとしても、その時間もいずれ終わりは来る……。 
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