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エミルは三度目の正直とばかりに意を決して告げた。
「……岬。あなたは幸せだった?」
「えっ? どうしたの? 突然……」
姉の予想外の一言に、岬は思わず苦笑いを浮かべ聞き返した。
当然だ――突然『幸せだったか?』なんて聞かれても、答えられるものではない。だが、その真剣な眼差しにしばらく考える素振りを見せ。
「うん! 幸せでした。友達は居なかったけど、毎日姉様がお見舞いに来てくれて、毎日が楽しかった」
岬はそう呟くと、姉の顔をまじまじと見つめた。
その透き通った黄色い瞳は、夕日を受け一層美しく輝く。
「あたしは姉様の妹で幸せでした!」
そう言ってにっこりと微笑む妹の顔が、最後の病室での一時を思い出させる。
エミルは瞳から大粒の涙を流しながら岬の体を抱き寄せる。
「ごめんなさい。ごめんなさいね……私の方が、お姉さんなのに、泣いてばかりで……」
「いえ。泣きたい時は泣けばいいんです。そう教えてくれたのは姉様ですよ?」
「ええ、そうね……」
エミルは涙を袖で拭うと、また噴き出しそうになる涙を堪え、岬の顔を見て微笑みを浮かべる。
「私も……私も岬が妹で幸せだった。短い間だったけど、あなたとの時間は一生物よ。だってあなたは、私にとってのたったひとりの妹ですもの」
「……姉様」
それを聞いて、岬の瞳からも一筋の涙が流れた。
だが、最後の時は余りにも突然で、非常に短い時間しかなく多くを語れなかった。岬がエミルの言葉に感極まるのも無理はないだろう。
しばらく、お互いの顔を見合っていると、岬が徐ろにエミルの肩を掴んだ。
「姉様? あの星っていう子の事なのですが……」
「……えっ? あっ、ええ。あの子がどうかしたの?」
エミルは突然の言葉に驚き、動揺する。
それもそのはずだろう。死んだはずの妹からすれば、見知らぬ子に姉を取られたと感じていてもおかしくはない。
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