もう一人のドラゴン使い

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 だが、それは普段から隠れて監視していたストーカーだからとかではなく。単に、彼女がこの世界では有名人だったからだ。  彼女の『白い閃光』という通名を知っていたのも、それが理由だろう。  そんな彼女に対応すべく。敵視していた影虎は、ドラゴン同士の戦闘を視野に入れ、普通のハルバードよりも長い今の得物を手に入れたと考えられる。  彼女に的を絞って、確実にエミルを倒す為に……。  エミルは必死に速度を上げ影虎を振り切ろうと試みるが、やはり彼を乗せた黒竜が徐々に差を詰めてくる。 (……このままじゃ逃げきれない! 星ちゃんを助けないといけないのに!!)  手綱を握るエミルに、明らかに焦りの色が見え始めていた。  後ろから猛追してくる影虎にもう一度、不意打ちを仕掛けたくても。一度やっていることを、もう一度行うのには空中ではリスクが高過ぎる。  それはそうだろう。不意打ちとは不意にやるから意味があるものであって、何度も仕掛けるのは不意打ちではない。  相手もエミルがドラゴンから離れ、攻撃をしてくるしかないと分かっているだろう。もしも、次にハルバードで体ごと強く横に弾かれれば、最悪の場合は地面に叩きつけられて即死だ――。     だが、このまま逃げ回っていても攻撃しなければいずれ追いつかれ、後ろから月明かりを受けて不気味に輝くあのハルバードの餌食になる。  チラチラと後ろを振り返りながら、エミルは思考を回す。 (どうする? 怖い、気持ち悪い、なんて言っていられないわ! あの人と戦う理由もない。ここは、この戦いがお互いに利がないと説得できれば……向こうも引き下がるはず。でも……)  高速で蛇行しながら飛ぶエミルを、影虎が必死に追いすがってくる。やはり、空中で相手を引き剥がすのは不可能。残る方法は1つしかない……。  考えるのは簡単だが、この状況で実行に移すとなるとそう容易なことではないが。かと言って、このままではいずれ追いつかれてしまう結果に変わりはない。     高速で移動している為、武器と手綱で両手が塞がっている。これではコマンドを操作することもできない。  一番の問題はこの状況で、どうやって相手に自分の意思を伝えるかだ……。
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