侍の魂

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 デイビッドは直ぐ様、持っていた刀を地面に突き立て、両手で右足と左肩に刺さっている矢を引き抜く。 「うらあああああああああああッ!!」  デイビッドは咆哮を上げながら引き抜いた矢を投げ捨てた。  それと同時にHPの減少も止まり、デイビッドは素早く地面に突き立てた刀を引き抜き前に構え直す。  PVP扱いの戦闘でHP管理は最も重要なことは、ベテランのプレイヤーほど知っている。  回復アイテムを使用できない仕様はそのままに、本来は少人数でしか対戦できないシステムを改悪され複数戦闘可能になった今、デイビッドにとってこの戦闘は常に数に押される不利なものとなるのは容易に想像ができた。  その刹那、デイビッドに敵は容赦なく矢を放つ。  勢い良く飛んでくる矢を見据え、足に力を込めるとデイビッドは敵目掛けて走り出す。 「うおおおおおおおッ!!」  咆哮を上げながら持っていた刀でデイビッドは、その矢をできうる限り斬り落とす。  だが、数百の敵が放ち雨の様に浴びせかけられる矢を全て防げるはずもなく、撃ち落し損ねた数多くの矢がデイビッドの体を無慈悲に貫く。  さすがに耐え兼ねた体の至る場所に矢が刺さったまま、デイビッドは思わずその場に膝を突いた。一瞬にして痛覚を麻痺させるほどの激痛が、デイビッドの全身を駆け巡る――。  デイビッドは苦痛に表情を歪ませながら小さく呟く。 「……この数。しかもアマテラスはあの女の技で封じられ、弓による遠距離からの攻撃。数の上で戦略でも俺が圧倒的に不利…………ならば!」  完全に不利な状況でありながらも、デイビッドのその瞳からはまだ闘志は消えていない。弓を構え弦を引き絞る敵を鋭い眼光で睨みつけ、握っていた刀の柄を更に強く握り締めている。  その直後、女の号令で一斉に矢が放たれ、天を覆い尽くす程の矢がデイビッドに向かってくるのが見えた。 「――俺は……侍だ! 侍は死を恐れず! 逆境こそ最大の見せ場!!」  荒く肩で息をしてそう呟くと、敵の大群に向かって特攻を仕掛けるデイビッド。  本来ならば無意味な行動かもしれない。だが、その無謀とも言える特攻こそ、この逆境を打開する策なのだ――。
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