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自分の胸の中で泣いている姉に岬が優しく語り掛ける。
「ゲームの中ですけど……姉様と、またこうして会えて、あたし嬉しいです」
「……私もよ。ずっと会いたかったわ……」
涙で濡れる姉の顔をハンカチで拭うと岬がくすっと笑う。
エミルは不思議そうに首を傾げ「どうしたの?」と尋ねた。
岬が微笑みながら、きょとんとした表情でいる姉の顔をまじまじと見つめ。
「いえ、姉様のそんな姿。始めて見ましたので、つい」
「――えっ? あっ、ご、ごめんなさい。こんなお姉ちゃんなんて、岬も嫌よね……」
エミルはその岬の言葉で我に返り。慌てて服の袖で顔を擦った。
慌てふためく姉の姿を微笑みながら岬が見つめる。その後、2人は夕日で真っ赤に染まる海を静かに眺めていた。
今、目の前で起きているのが夢だとは知りながらも、エミルは嬉しさのあまり、再び涙が頬を伝う。
それを見た岬はポケットから取り出したハンカチでその涙を拭うと、にっこりと微笑み掛けた。
溢れそうになる涙を上を向いて耐えると、エミルも妹に優しい微笑みを浮かべる。
今のこの出来事――それはエミルが夢にまで見たことだったからだ。
小学生の頃からずっと病院に入院していた岬とは、一緒に出掛けるなんてことは絶対に考えられなかった。
普通の姉妹ならできるようなことが、岬とは一切できなかったのだ。
姉として妹にしてやりたいこと、教えたいことがたくさんあったのだが、その全ては病弱だからというだけで否定され続けてきた。
しかし、今はこうして2人で夕日を見ている。それが本当に夢のようだ――いや、紛れもなく夢なのだが……。
「……まさか、岬とこんな夕日を海で見れる日が来るなんて……」
つい本音がエミルの口から溢れる。
その言葉を聞いた岬の表情があからさまに曇った。
「……ごめんなさい。私が入院していたばっかりに、姉様には寂しい思いを――」
エミルはそんな妹の体を抱き締めると、耳元でささやくように言った。
「――なに言ってるの? 寂しい思いをしてたのはあなたの方でしょ?」
「あたしは慣れてます……」
そう返した岬に「そういうのは慣れるものじゃないのよ?」と言って、エミルは彼女の紺色の髪を優しく撫でる。
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