第四章

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 クックックックと喉を鳴らして笑う倭斗くん。 「あんた、あの結城晴朝の黄金が本当にあると思ってんの?」 嘲笑もあらわに倭斗くんが尋ねた。 「貴様に何がわかる。あの川上華子が解読したんだぞ」 根本は何の疑いもなくそう断言した。 「だがそれは公には発表されていない」 淡々とした倭斗くんの問いが続く。 「あの和歌はお宝を示した暗号ではなかった、という事は考えなかったのか?」 「川上華子がひとり占めしようとしているからだ。それを証拠に和歌の一節が削り取られただろ。あれは川上華子がお宝を独り占めしようとしたからに違いない」 その言葉に倭斗くんは何の反応も示さなかったけど、私は黙っていられなかった。 「そんなわけないでしょ。あんたホントにバカッ! マジでバカ! 救いようのないバカ! 川上華子さんがそんなくっだらない事するわけないでしょ! あんたの脳みそじゃ、そんなことも分かんないの?」  すさまじい勢いで口撃する私に、根本は顔を真っ赤にして反論する。 「おおお、お前は黙っていろ。死にたいのか!」  根本の言葉に食って掛かる私を、根本がナイフを押し付けて黙らせるが倭斗くんの口からは毒が吐かれる。 「まあ、黄金があると信じて夢見るのは勝手だけどさあ、人様に迷惑かけちゃあダメでしょ。センセー」 先生と言ったわりにはその言葉に全く尊敬の念が見えない。それどころか小バカにしているようにさえ聞こえる。というより実際にバカにしているのだけど……。 鉄仮面の貴公子ならぬ毒舌の貴公子だ。 すっかり倭斗くんに取り込まれた根本は、私の耳元で怒鳴り声をまき散らす。 「はっ、素人が何をほざいている。あの徳川家康も掘り起こしているんだぞ。あるに決まっているだろ」 「そうかなぁ。晴朝が亡くなったのは慶長十九年だろ。和歌が彫られている金光寺の山門って四百年も経っているようには思えないんだけどな」  さも見てきたような言い方である。
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