第四章

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 冷静に考えれば、倭斗くんがでたらめなことを言っていると疑うことができたかもしれないのに、今の根本はその冷静さを欠いていた。 だから、倭斗くんの言葉にのせられる。 「あの山門を見たことがあるのか?」 「あんたは見たんだろ? 山門に書かれた和歌を。でもって信じたわけだよな、お宝があるって。俺にはあの和歌がお宝の在処を示しているようには思えなかったけどな」 「貴様に何がわかる。いくら秀才だとはやし立てられているお前でも、あの和歌を読み解くことはできないだろ。あの和歌はお宝の在処を示しているんだ。黄金は私のものだ」 「は? 和歌を解読できないのはお前の方だろ?」 「和歌ならこいつが解いただろ」 根本が私にナイフを突きつけながら叫んだ。 「結局人頼みか。マジでゲス野郎だな」 「う、うるさい。人頼みではない。私がこいつを利用しているんだ」 物は言いようだけど、倭斗くんは根本の言い訳にいっさい興味を示さなかった。 「ふーん、別にどっちでもいいけどさあ、言っとくけど、そいつ川上華子じゃないぜ」 「お前ごときに何がわかる。こいつが川上華子だという証拠はちゃんとあるんだぞ」 「ああ、あれでしょ、結城紬の人形」 その言葉に、根本が息をのんだ。 「なぜお前が人形のことを知っている? 人形の話は私しか知りえない情報だ」 「あの人形がなんで川上華子の証拠になるんだよ、マジありえねー」  あきれたように言う倭斗くんの言葉に、根本が焦りを見せる。 「何故お前がその人形のことを知っているのかって聞いてるんだッ!」  烈火のごとく怒る根本。それに対して倭斗くんは飄々と答える。 「川上華子本人なら、その人形のことを知っていて当然だろ」  倭斗くんが言った言葉の意味がよくわからなかった。  それは根本も同じみたいで、戸惑いもあらわに倭斗くんに尋ねる。 「お前は何を言っている?」  一瞬だけど倭斗くんが躊躇した。が、すぐに倭斗くんは自分を指さした。 「川上華子は……俺ってこと」 んなわけあるかッ! と誰もがツッコミたくなるそのセリフを、平然と言ってのけた倭斗くん。 ものすごく真面目な顔をして言っているけど、はいそうですかってすぐに信じられる話じゃない。 「お前なわけがないだろ。バカも休み休み言え」  ものすごく真面目な顔で言うものだから、私でさえ信じてしまいそうになるけど、あまりに突拍子もない話に、当然、根本の視線も疑り深いものになる。 「えー? この期に及んで信じてくれないの? 人形を持っていただけのヤツをなんの疑いもなく信じたのに?」 そうだそうだ、と私も声を出して言いたいところだけど、今は黙っておくことにする。
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