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「そもそも川上華子は女だぞ。男のお前が川上華子なわけがない」
そう、倭斗くんが川上華子さんだと言い切るには、根本的に無理がある。
けれど、当の倭斗くんは一向にひるむ様子がない。
それどこらか、ニヤリとほくそ笑む。
「でもさぁ~、川上華子って正体不明だろ。なんで女って決めつけてんの?」
「川上華子はモデル並みのスタイルでとびきりの美人って噂だ」
「モデル並みのスタイルでとびきりの美人なら、どう見てもそいつは当てはまらないだろ」
「そこが解せないところだが、噂は脚色されるものだ。とは言っても川上華子は女だ。華子だぞ、女に決まっている」
おいおい君たち、何気に失礼なことを言っているがわかっているかい? とツッコみたくなるが、その余地はない。
根本の言葉に倭斗くんは、はっはっはと、わざとらしい笑い声をたてた。
「あんた仮にも歴史を教えている教師だろ。蘇我馬子とか小野妹子も男だ。そんなの小学生でも知ってるぞ」
「そんなふざけた事を……そんな言い訳が通ると思っているのか?」
根本は唇を噛み忌々し気に吐き捨てたけど、倭斗くんはあっけらかんと言い放つ。
「いわゆるペンネームってやつだ。どうつけようが勝手だろ」
一瞬言葉を失った根本だったけど、なおも食い下がる。
「百歩譲ってお前が川上華子だとしてもだ、和歌の謎を解いたのは女性研究者だ」
「どっかのバカが、寝ぼけて俺のことを女だと勘違いしたんだろ」
これがごく普通の男なら、そんなアホな、と一蹴するところだけど、相手が見目麗しい倭斗くんなら、それっぽい恰好をしていたら見間違われても不思議じゃないと思えてしまうから怖い。
悔しいが、自分よりも倭斗くんのほうが、モデル並みのスタイルでとびきりの美人という噂にも信ぴょう性がでてくる。
失礼なことに根本も否定しきれず、さらに疑問をぶつける。
「それならあの人形の事はどう説明するんだ?」
「さっきから不思議に思ってるんだけどさ、それって、どこからの情報? あの人形は人形作りが趣味の知り合いのばあちゃんが作ってくれた、ただの人形だ。たったそれだけのこと」
倭斗くんがあきれたように言うが、根本は諦めきれないのか、なおも食い下がる。
「そんな戯言が通じるとでも思っているのか? 川上華子が結城晴朝の黄金の謎を解いたというのは、トレジャーハンターの間では今や確信になりつつある。しかも、お宝を狙っているのは俺だけじゃない。お宝の在処を聞き出すためには手段を選ばない奴らもいる。今のうちに白状しておいた方が身のためだぞ」
あたかも自分は優しいとでも言いたげな口調だが、根本がやっていることも相当姑息な手段だ。
でも、不幸なことに本人はまったくその事に気づいていないらしい。救いようがないとはこのことか。
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