第四章

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 倭斗くんもいい加減うんざりしたように言葉を吐く。 「だーかーらー、白状するも何も、お宝なんかどこにもないって、さっきから何度も言ってるじゃん。マジで頭わりーなこのおっさん」  倭斗くんのこの言葉でようやく真実だと認識したのか、根本がガックリと肩を落とした。 「そんな……」 「じゃ、そういうことで。そいつ返してもらっていい?」  落ち込んだ根本の声とは逆に、倭斗くんの声が明るく響いた。 「だ、ダメだ。お前が川上華子だっていうなら、川上華子の見解とやらを聞かせてみろ」 往生際が悪いというのはこういう事をいうのかとしみじみ思った。 倭斗くんも同じことを思ったのか、すごくイヤそうに顔を歪ませた。 「さっきも言っただろ。お宝の在処なんて示していないって。三つの和歌の共通点は『次代に繋ぐことが自身の幸せだ』って言ってることくらいだ。あれはただ栄華を羨んだだけの和歌だ」  倭斗くんにそう突きつけられ、項垂れる根本。 「じゃあ、私は何のためにこんなことを……」 「知るかッ! あんたが勝手に勘違いした結果だ」  倭斗くんの言葉が刃となって突き刺さったのか、根本は半ば半狂乱になって叫び声を上げた。 「ウオォォォォォォ――!」  叫びながら根本はナイフ振り上げた。  刺される!  逃げようとしたけど、体に力が入らず動けずに、ただ身構えるしかできなかった。  目をぎゅっと瞑ってその時を待ったけれど、来るはずの衝撃がこない。  恐る恐る目を開けてみると目の前に倭斗くんがいて、根本が私に向けたナイフを握りしめていた。  握りしめた手からはポタポタと血が垂れている。  その血を見た瞬間恐れをなしたのか、根本は短い悲鳴を漏らしナイフを手放した。  カランと音を立てて、血に染まったナイフが床に落ちた。  一歩二歩と後退った根本の顔面を、倭斗くんが思いっきり蹴飛ばした。  根本は人形のように吹っ飛び、そのまま動くことはなかった。  ようやく危険が去ったのだと思ったとき、膝から崩れるように倭斗くんがその場にうずくまった。
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