第四章

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「っ痛」  私は重い体を引きずるように、倭斗くんの元へ駆け寄った。 「何やってるの!」  違う。 言いたいのはこんな言葉じゃない。  自分のためボロボロになって助けに来てくれたのに、ケガまでして助けてくれたのに、そんな倭斗くんに言いたい言葉はこんな言葉じゃない。  けれど、口から出る言葉は意に反して可愛くない言葉ばかり。 「なんでこんなになってまで、私のこと助けたりするのよ」   私はただのクラスメイトなのに……。  街ですれ違っても気づかないクラスメイト……。  なのに……。  溢れだす涙。 急いでバッグからハンカチを取り出して、倭斗くんの手に巻き付けた。 でも、白いハンカチはすぐに赤く染まっていく。 早く……早く何とかしないと。 気持ちが焦るばかりで何もできずにいる自分が情けない。 「ごめんね……ごめんね」 必死で守ってくれた倭斗くんに何もしてあげられない。 ただ泣きじゃくることしか能がない役立たずの自分に、倭斗くんは微笑みを返してくれる。 「大丈夫、こんなのただのかすり傷だ」  倭斗くんはそう言ってくれたけど、血を抑えられなくなったハンカチからはポタポタと血が滴り落ちている。 「大丈夫じゃないよ……血が止まらない……どうしたら……、ああ、私ホント役立たずだね。ごめんね……ごめんね」 「乙羽……」 倭斗くんがとても優しい声で名前を呼んだ。 これまで見たこともない真剣なまなざしで倭斗くんが見つめてくる。 倭斗くんはケガをしていないほうの手で私の涙を拭う。 そして諭すようにゆっくりと、優しく語りかける。 「乙羽、聞け。俺は大丈夫だ。華のマズイ弁当を食わされるよりましだ。だろ?」  そう言って倭斗くんは優しく微笑んだ。 スッと心が落ち着くのが自分でもわかった。 鉄仮面の貴公子なんて、誰が言い出したのだろう。 こんなにも表情が豊かで、優しい笑顔を見せる人を……。 安心したら急に眠気が襲ってきた。 こんなところで意識を手放すわけにはいかない。 これ以上、倭斗くんに迷惑をかけるわけにはいかないのだから……。 けれど、眠気は容赦なく襲ってくる。私の意思に反して瞼は閉じられてしまう。 すると、突然倭斗くんが私を包み込むようにギュッと抱きすくめた。 「もう大丈夫。俺がお前を守るから……もう誰にもお前を傷つけさせない、絶対に。だから安心しておやすみ」 倭斗くんの言葉が、温もりが心地よくて、私は意識を手放した。
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