第五章

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 普通に熱を測っているだけなのに、看護師が私の顔を伺うようにのぞき込んできた。  首をかしげる私に、看護師さんがニコッと微笑む。 「素敵な彼氏ね」 思ってもみなかった言葉をかけられ、思わず目を見開いた。 「か、彼氏? 誰が? 誰の?」  看護師さんの言葉をうまく消化できずに声が上ずる私に、逆に看護師さんが驚く。 「あれ? 桐谷さんはあなたの彼氏じゃないの?」  言われて慌てて否定する。 「まさかッ! 違います、違います! 私彼氏いませんから」 「え? 違うの? だって、真っ先に桐谷さんの事を聞いてきたし、彼も……え? でも、ああ、ふ~ん、そうかそうか、なるほどね。青春してるのね」  驚いたかと思うと、何故か一人で納得する看護師さんに、急に不安になる。 「な、なんですか?」  尋ねる私に、看護師さんは意味ありげにほほ笑んだ。 「ふふふふ、彼ね、救急車に乗っている時から、ずっとあなたの手を握っていたらしいわよ。彼、相当ボロボロだったから、別の処置室で治療しようとしたんだけど、あなたの無事を確認するまでは自分は治療を受けないってきかなくて。治療中もしきりにあなたの様子を聞いてきたし、よっぽどあなたのことが心配だったのね。ひと時も離れたくないって感じだったわ。あなたの親御さんがお見えになった時も、『守れなくて申し訳ありませんでした』って平謝りだったのよ。でも彼が悪いわけじゃなかったし、逆にあなたを『守ってくれてありがとう』ってお礼を言っていたけど、見ているこちらが可哀そうに思うくらい申し訳なさそうに項垂れてちゃって……。それに、今日は目覚めないかもしれないからって言ったんだけど……」  言葉を濁す看護師さん。  倭斗くんがまだこの病院に居て、私が起きるのを待っているのだと気付いた。 「え? もしかしてずっと待ってるんですか?」  外も見えないし、時計もないからあれからどのくらい時間が経っているのか見当もつかない。  待ち合わせの時間は十時。それから迷路を巡って……根本に捕まった時にも意識を手放してしまったからまったく時間の計算ができない。でも単純に考えても一時間や二時間では済まなそうだ。
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