第五章

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「華さんのこと、嫌いになんてなるわけないじゃないですか。悪いのはぜ~んぶ根本です。だから、もう謝るのはやめてください」  私の言葉に、華さんの表情が緩む。 「ホント? 許してくれるの?」 「許すも何も、華さんのこと怒ってもないです。けど……」 「けど?」 「ひとつだけお願いがあります」 「何? 乙羽ちゃんのお願いならなんだって聞くわ。根本のことぶん殴りに行くんなら任せて、元の顔がわからないくらいぶん殴ってやるわよ」  何気に恐ろしいことを言う華さん。 「いやいや、そうじゃなくて……。これからたくさん私と歴史の話をしてくれますか?」  こんなこと言うの少し恥ずかしかったけど、恥ずかしさが吹っ飛ぶくらい、華さんは満面の笑顔を見せてくれた。 「もちろん! 本能寺の変の話や卑弥呼の謎、坂本龍馬の暗殺や諏訪湖に眠る棺桶の話、萌える話は尽きないわ。これからいっぱい話しましょ!」  思わずガッツポーズ。  そんな私を見て、倭斗くんがクスッと笑った。 「尊敬する川上華子さんとこんな風に話ができるなんて、うれしいです」 「私もうれしい!」  そう言うと、華さんがまた私に抱きついてきた。  この際だから、気になっていたことを聞いてみる。 「あの……聞いていいですか?」 「乙羽ちゃんの質問なら何でも答えちゃう。じゃんじゃん聞いて!」  さっきまでの泣きそうな顔がウソのように、華さんの表情に笑顔が戻った。 「結城晴朝の三首の和歌の謎を解いたって本当ですか?」  お宝にはたいして興味はないけど、尊敬してやまない川上華子さんが、あの和歌をどう訳したのが気になった。 「金光寺の山門を見に行って和歌を解読したのはホント。でもお宝の在処を示した和歌じゃないっていうのが私の見解。あれは、自分の代で終わってしまったことを悔やんだ詠歌としか思えない。しかも、結城晴朝が遺したってのもちょっと疑問がある。人形は私の旦那のお義母さんが、趣味で人形を作っているの。私の職業が歴史研究家だから、いろんな武将の人形を作ってくれるんだけど、なんでこんな話になっちゃったのか不思議よねぇ~」  噂とは本当に恐ろしいものだ。
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