17人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
「あ、そうだ。警察の人が話を聞きたいって言うんだけど、大丈夫? 無理なら明日でも全然かまわないわよ」
華さんが聞いてきたので、笑顔で頷いた。
「私は大丈夫ですよ。警察の方もすぐに話を聞きたいんじゃないですか?」
「ありがとう。助かるわ。じゃ、ちょっと待ってて、今呼んでくるから」
そう言うと、華さんはそそくさと病室を出て行った。
華さんが出ていくと部屋がシンと静まり返った。
ずっとその場に立っている倭斗くん。死闘を繰り広げ、その上何時間も立っていたのだから体はしんどいだろうに、倭斗くんはそんな事をおくびにも出さない。
けれど、普通に椅子に座れって言ってもきっと聞き入れないだろうから、わざとそっけない言い方をする。
「見上げてるの辛いから、そこに座ってよ」
倭斗くんは一瞬ためらったけど、ベッドの傍の椅子に腰を下ろした。
でもすぐに後悔した。
座ったら倭斗くんの顔がよく見えるようになって、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
すると、先ほど看護師さんから聞いた話が頭をよぎる。
『救急車に乗っている時から、ずっとあなたの手を握っていた』とか、『あなたの無事を確認するまでは自分は治療を受けないってきかなくて』とか、極めつけは『あなたのことが心配だったのね。ひと時も離れたくないって感じだった』なんて……。
絶対に信じられないことだけど、想像しただけで顔が火照ってくる。
火照る顔を何とかしたくて、両手で顔を覆った。けれど、その行動がさらに自分自身を追い詰める。
倭斗くんが私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫か? なんか、顔が赤いぞ。気分が悪いのか? 待ってろ、今看護師さん呼んでくる」
そう言って立ち上がろうとしたから、慌てて倭斗くんのシャツを掴んで引き留めた。
「待って、行かないで!」
「え?」
驚いた顔で私を見た倭斗くん。その顔を見て、自分が発した言葉にハッとした。
あ、違う。間違えた!
さらに顔が火照るのが自分でもわかったから、倭斗くんの顔を見ることが出来ずに俯きながら言った。
「えっと、その、具合が悪いとかじゃないから……、ホント大丈夫。うん、大丈夫」
「ホントに?」
いつもは意地悪なくらい嫌味なことを言うくせに、今日に限って何故かとても優しくて、どう対処していいか分からなくなってしまう。
とりあえず何度も頷くことにした。
最初のコメントを投稿しよう!