第五章

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 聞き返そうと口を開くよりも先に、倭斗くんが立ち上がった。 「華じゃないか?」  そう言われて、倭斗くんの言葉が気になりつつもノックに応える。 「どうぞ」 ドアが開いた瞬間、息を呑んだ。 クマが部屋に入ってきたのだ。 しかもクマはスーツを着ている。 「倭斗くん……どうしよう。クマが入ってきたよ」 一難去ってまた一難。 今はまだ本格的な冬じゃないから、冬眠し損ねたクマではないけれど、冬眠する前のクマもきっと凶暴に違いない。 けれど、スーツを着ているクマはアニメの世界しか見たことがない。野生のクマってことはありえないから、サーカスか何かのクマだろうか……。    そんなことを考えていると、倭斗くんがいきなり吹き出した。 「良く見てみろ……ククッ。あれはクマじゃない。ククク……人間だ。ちなみに華の旦那だ」  またしても衝撃的な言葉。  確かによく見ればクマじゃない。毛むくじゃらでもない。  クマのように大きくて、屈強な体格の男の人だった。  その人の後ろから華さんが入ってきた。  想像していた華さんの旦那様とはずいぶんかけ離れたその人が、近づいてきた。 目の前まで来ると、内ポケットから手帳を出し旭日章を見せてくれた。 「森野です。とんでもない目にあったね」  見た目とは違い、とても優しい声だった。 「はい」  短く答えた私に、やさしいほほ笑みを返してくれたけど、隣で肩を揺らして笑っている倭斗くんを訝し気に見つめた。 「倭斗くん、大丈夫かい? 頭でも強く打ったのかい?」 「いいえ……クク、違います……ククク、こいつが変なこと言うから……」 「変なこと?」 「な、何でもないです! たぶん緊張から解き放たれてテンションがおかしくなっているだけです。アドレナリン大放出ってやつです。うん、そうです。きっとそうです!」 クスクスクスクス、笑いが止まらない倭斗くんの脇腹を軽くつついた。 それでも収まらず、倭斗くんは『クマサン……モリノ、クマサン……森のくまさん』とぶつぶつ言いながらひとり笑い続けている。
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