第五章

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「君が『弁当の神様』だったのかッ!」 「べ、弁当の神様って何ですか?」  その恥ずかしいネーミングに、思わず顔を歪ませる。 「君のおかげで華の弁当が『食べられる弁当』になってきたんだよ。そうか、そうか、君が弁当の神様か」  お願いだからそのネーミングはやめてくれ、と思っている隣で、倭斗くんが再びツボにはまったようで涙を流して笑っている。  それでも華さんと洋平さんは、相変わらず笑い転げる倭斗くんのことを軽くスルーする。 「華、僕も一発じゃなくて二・三発は殴ってやりたり心境だ」  洋平さんの言葉に、私も心の中で力強く頷いた。  私も倭斗くんを殴ってやりたい心境だ。 「でしょ! 今からでも遅くないかしら」 華さんが嬉々として洋平さんに聞いた。さっきまでの洋平さんなら華さんの言葉に力強くうなずきそうだったけど、洋平さんは警察官としての職務を思い出すように首を横に振った。 「い、いかん、いかん。そうじゃなくて、ヤツは僕がみっちり取り調べをしてやる!」  洋平さんの目に炎が見えたような気がした。 「あ、あの、聞きたいことがあるんじゃ……」  その言葉で正気に戻ったのか、洋平さんが私の手を離した。  話といってもたいした話ではなく、いくつか質問に答えただけだった。  すると、それまで黙って聞いていた華さんが話に割り込んできた。 「ねえ、乙羽ちゃんが根本に言った和歌の訳、私にも聞かせて」  突然何を言い出すかと思えば、できれば記憶から消したいことを華さんは聞いてきた。 「い、いや、たいした訳じゃないんで……」  やんわり断るが、あっさり引いてくれる華さんではなかった。 「そう、なら根本に聞いてみようかしら。洋平さん、根本に接見できる?」 ニコニコニッコリ。華さんが満面の笑みで私を脅す。  幼稚な訳だと笑われた根本に聞けば、何をどんなふうに言われるかわかったものではない。だったら、自分で言った方がまだましかもしれない。  笑われるのを覚悟して和歌の訳を話すと、華さんは笑わなかった。  笑うどころか真剣に考え込んだ。
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