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「でも変ですよね。さといもって滅多に花を咲かせないから。なんでさといもの花なんでしょう。そう言えば滅多に花を咲かせないのは竹も同じで、竹が白い花を咲かせるとその竹藪はすべて枯れてしまうって聞いたことがあります。晴朝も血筋が枯れちゃったからそこに思いをはせてよんだ和歌なんですかね。あれ? でも金光寺に竹藪ってありましたっけ?」
「ある。あったって言った方が正しいけど、乙羽ちゃんこの訳、根本以外の人に話した?」
少し考えこんでいた華さんが、真剣な顔で聞いてきた。
こんな恥ずかしい訳、人に言えるわけがない。
首を振る私に、華さんは少しホッとしたように息をついた。
「もうその話はいいだろ」
先ほどまで涙を流して笑っていた倭斗くんが、突然話に割って入った。
「そうね。そろそろ行きましょう」
華さんの言葉に洋平さんが小さくうなずいた。
洋平さんは小さくお辞儀をすると華さんと一緒に部屋を出て行った。
再び二人きりになってしまった。
私の心臓も再びドキドキと言い出した。
でも、倭斗くんはそっけなく部屋を出ていこうとした。
だから慌てて声をかけた。
「ごめんなさい!」
思いのほか声が大きくなってしまった。だからなのか、倭斗くんは驚いたように目を見開いた。
「なんでお前が謝る?」
「この前……ひどいこと言っちゃった……から」
やっと謝ることができたと思ったのに、倭斗くんは不思議そうに首をかしげる。
「お前が謝る必要はないだろ。悪いのは全部俺だ」
「ううん。倭斗くんは何も悪くない。倭斗くんは自分が傷つくことばかりを選んでる。なのに……私、気づきもしないでひどいこと……」
うつむく私の頭を倭斗くんがクシャっとなでた。
見上げると、とても優しい瞳が私を見つめていた。
「俺は……お前を守れなかった。それがすべてだ。自分を責めるな。お前は何も気にする必要はない」
「ちがうッ! 倭斗くんはちゃんと私を守ってくれた。ファンクラブの子に責められた時も、根本に捕まった時も、そして……今も」
倭斗くんはじっと私のことを見つめている。だから、恥ずかしさがこみあげてきて言葉に詰まってしまう。
でも、この言葉だけは絶対に伝えなきゃ。
「守ってくれて……ありがとう」
カァーっと顔がほてるのが自分でもわかった。
すると、倭斗くんはさっきよりも強い力で、クシャクシャっと頭をなでた。
だから、倭斗くんの顔は見えない。
でも、とても優しくて暖かい声が耳に届いた。
「おやすみ」
それだけ言うと、倭斗くんは部屋を出て行った。
ひとり残った静まり返った部屋に、ドキドキと高鳴る心臓の音だけが響いていた。
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