17人が本棚に入れています
本棚に追加
それに対して、倭斗くんも突き放したような言い方をする。
「お前がフルネームで呼ぶからだろ」
確かに。
でも素直に謝るのも癪に障る。
気まずくなって下を向いた。
すると、倭斗くんの制服のボタンが一つだけ違う事に気付いた。
あれ? ボタンが……。
「もしかして、入学式の時助けてくれたのって……」
「やっと気づいたか」
その言葉でハタと気付く。
「え? もしかして気付いていなかったのって、私だけ?」
何を今さら、とでも言いたげな表情の倭斗くん。
「お前以上にどんくさいやつは他にはいないだろ。電車からは追い出されるし、弁当だけ電車に取られるわ、せっかく集めたチラシを巻き散らすわ、挙句に根本に華と間違われるってどんだけどんくさいんだよ」
自分のドジっぷりを列挙され、恥ずかしさのあまり言い返す言葉もない。
いたたまれず下を向くと、自分の制服のボタンが取れかかっているのに気が付いた。
手に触れるとボタンがポロンと取れてしまった。
すると、倭斗くんは何を思ったのか、私のボタンを手に取った。
「あなたのはこっちだけど……」
慌ててポケットに入れっぱなしだったボタンを取り出して、倭斗くんに差し出した。
けれど、戸惑う私をよそに、倭斗くんはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「そのボタンと交換」
意味が分からず聞き返した。
「はぁ? なんで?」
「虫よけ」
「え? ボタンに防虫効果があるなんて聞いたことないよ。しかもウチの制服って、男女でボタン違うし」
さらに言い募ろうとする私の頬を倭斗くんが引っ張った。
「はひふるにょひょ~」
何するのよ、と言ったつもりだったけど、頬を引っ張られたせいで言葉にならなかった。
最初のコメントを投稿しよう!