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倭斗くんが吹き出した。
「変な顔」
ひどい! 自分がやったくせに。
けれど、不思議だ。
倭斗くんが笑うと自然と心が軽くなる。
さっきの駅で乗客が減ったとはいえ、それでも電車の中は窮屈だ。
いつも以上に倭斗くんとの距離が近いことに今更ながら気付き、胸が騒ぎだす。
悪いことに電車がガタン大きな音を立てて揺れた。
その途端、乗っていた多くの人がバランスを崩しそれぞれに身体を揺らした。
傍にいた男性が倭斗くんの背中に当たり、私がいるほうへ体が傾いた。ぶつかると思ったけど、倭斗くんはドアに手を突くことで何とか堪えた。
でも、ドアを背にして立っていたから、私は倭斗くんとドアに挟まれた形になってしまった。
すぐ目の前に倭斗くんがいる。
意識した途端心臓の鼓動がだんだん大きく早くなる。電車の音がその音をかき消してくれることを願う。
頭ひとつ以上も上に倭斗くんの顔がある。
そう言えば、こんな近距離で倭斗くんの顔を見たことがなかった。
サラリとした髪、切れ長の目、筋の通った鼻、線が細く少し女性的だけど、日に焼けた肌が男らしさをかもし出している。眉目秀麗とはまさにこういう顔のことをいうのだろう。
そんなことを考えていると、艶っぽい瞳が私をとらえた。
心臓の脈を打つ速さが加速する。
倭斗くんの顔が近づいてきたかと思うと、耳元でボソッと呟いた。
「お前さ、約束忘れてるだろ」
思いもかけない言葉に首をかしげる。
「やっぱりな」
倭斗くんは少しあきれ気味に私を睨みつけた。
「おおおおおお、お、覚えてるわよ」
と言ってはみたものの、心の中では違う言葉を叫んでいた。
約束って何!
なんだっけ。
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