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「もしもし?」
怪訝そうな顔で私の顔をのぞき込んできた。
「あ、すみません。桐谷倭斗くんなら知っていますよ。同じクラスです」
そう答えると、女性はにっこりとほほ笑んでパチパチと手を叩いた。
「え、ホント? よかったぁ~。それならお願いできるかしら」
こんなキレイな女性にまっすぐに見つめられてお願いされたら、誰だって断れない。それを彼女自身知っているのか、私の言葉を待たずに紙袋を差し出してきた。
「これ、倭斗に渡してもらえるかしら。あの子ったらせっかく作ったお弁当を忘れて行っちゃったの」
そう言って、少し拗ねる仕草のなんと可愛いこと。
お弁当といえば愛情を具現化したもの。それをわざわざ持ってくるという事は、この目の前の女性は『桐谷倭斗』とどういう関係なのだろうか。
別に彼のことが気になるわけじゃない。学校一のモテ男にお弁当を持ってきた美女。
自然と想像力は働く。
母親? いや、どう見ても母親には見えない。
では彼女か……。
そう言えば『桐谷倭斗にはとびきり美人の彼女がいる』という噂を聞いたことがある。
だとするなら、この目の前の女性が彼女ということか。
確かにとびっきりの美人だ。噂は時として脚色されるものだけど、この女性に至っては脚色ではなくまぎれもない真実だ。
美男美女の二人が並んでいる姿はなんと優美なことだろう。
「彼女さんかぁ~」
感嘆のため息とともにつぶやいた私の言葉に、女性が首をかしげる。
「え? 私? カノウ、ジョーじゃないわよ」
そりゃあ、そうだろう。
こんな綺麗な女性の名前が『カノウ、ジョー』だったら、かなりぶっ飛んだ名前だ。
何をどう解釈したのか、目の前の女性は『彼女』を『カノウジョー』と思ったらしい。
誰じゃそりゃ。
ひとりツッコむ私に、彼女が不思議そうな顔をする。
「カノウジョーさんがどうかした?」
「いいえ、何でもないです。えっと、なんでしたっけ?」
思わぬ方向へ話が向かってしまったので、当初の話の内容を忘れてしまった。
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