第一章

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「もしもし?」  怪訝そうな顔で私の顔をのぞき込んできた。 「あ、すみません。桐谷倭斗くんなら知っていますよ。同じクラスです」  そう答えると、女性はにっこりとほほ笑んでパチパチと手を叩いた。 「え、ホント? よかったぁ~。それならお願いできるかしら」  こんなキレイな女性にまっすぐに見つめられてお願いされたら、誰だって断れない。それを彼女自身知っているのか、私の言葉を待たずに紙袋を差し出してきた。 「これ、倭斗に渡してもらえるかしら。あの子ったらせっかく作ったお弁当を忘れて行っちゃったの」  そう言って、少し拗ねる仕草のなんと可愛いこと。  お弁当といえば愛情を具現化したもの。それをわざわざ持ってくるという事は、この目の前の女性は『桐谷倭斗』とどういう関係なのだろうか。  別に彼のことが気になるわけじゃない。学校一のモテ男にお弁当を持ってきた美女。  自然と想像力は働く。  母親? いや、どう見ても母親には見えない。  では彼女か……。  そう言えば『桐谷倭斗にはとびきり美人の彼女がいる』という噂を聞いたことがある。  だとするなら、この目の前の女性が彼女ということか。  確かにとびっきりの美人だ。噂は時として脚色されるものだけど、この女性に至っては脚色ではなくまぎれもない真実だ。  美男美女の二人が並んでいる姿はなんと優美なことだろう。 「彼女さんかぁ~」  感嘆のため息とともにつぶやいた私の言葉に、女性が首をかしげる。 「え? 私? カノウ、ジョーじゃないわよ」  そりゃあ、そうだろう。  こんな綺麗な女性の名前が『カノウ、ジョー』だったら、かなりぶっ飛んだ名前だ。  何をどう解釈したのか、目の前の女性は『彼女』を『カノウジョー』と思ったらしい。  誰じゃそりゃ。  ひとりツッコむ私に、彼女が不思議そうな顔をする。 「カノウジョーさんがどうかした?」 「いいえ、何でもないです。えっと、なんでしたっけ?」  思わぬ方向へ話が向かってしまったので、当初の話の内容を忘れてしまった。
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