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「お弁当を倭斗に渡してほしいの」
「ああ、そうでした」
「倭斗、お弁当をちゃんと食べてくれているのかしら……。おいしかったか聞いても何にも答えてくれないんだもの。ねえ、倭斗おいしそうに食べてくれている?」
突然聞かれて言葉に詰まってしまった。
「えっと……」
昼食時の記憶を呼び寄せるが、地味な私とは『住む世界が違う人種』に分類している彼に関する記憶は皆無に等しい。
どうだったっけ……彼女の話しぶりだといつもお弁当を作っている感じだけど、確か彼はいつもパンを食べていたような……。
「もしかして倭斗、私が作ったお弁当を食べていないのかしら」
今にも泣きだしそうな顔をする彼女を見て、必死に記憶を絞りだす。
う~ん、どんなに記憶をまさぐったところで、桐谷倭斗がお弁当を食べているところを見たことがない――と、ここでひとつの記憶が蘇る。
学食のパンを食べている桐谷倭斗の隣で、彼の友だち――霧谷颯太がお弁当を食べていることを思い出した。
もしかして彼の友だち、颯太くんが食べているのが、『彼女の作ったお弁当』なのだろうか。
だったら許せない!
せっかく作ってくれた彼女のお弁当を自分では食べずに、他の人にゆずるその行為。
なんと罰当たりなことかッ!
そんな奴に手作り弁当なんてもったいない。
彼女はそのことを知っているのだろうか。いや、知らないからこそ、わざわざ届けに来ているのだろう。こんなキレイな彼女を騙しているなんて、許せない。
教えてあげたいけど……。
『彼は、一切あなたのお弁当を食べていませんよ』
なんて、言えるわけがない。
彼を信じて愛情を注いだお弁当を作った彼女に、そんな惨いことは言えるわけがない。そんなことを言って、泣かれでもしたらどうする?
目の前でハラハラと泣く彼女の姿を、想像するだけで胸が痛む。
彼女の笑顔を奪うことは、私にはできない。
いずれ知る時が来る。
そして、桐谷倭斗、ヤツにきっと天罰が下る時が来る。絶対!
その時を、今は待つしかない。うん。
……と、またしても思考があらぬ方向へとむかったところで、彼女が引き戻す。
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