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「やっぱりおいしくないのかな……」
そう言ってしょんぼりする彼女。よしよしと思わず頭をなでて励ましたくなる。
「い、いや、そんなことはない……と思いますよ」
そう、彼の代わりに食べているクラスメイトは、いつも悶絶するようにお弁当を食べている。きっと、ものすごくおいしいのだろう。
そうに違いないと、半ば強引に自分に言い聞かせる。
「すごく、おいしそうに食べています」
『彼の友だちが……』
心の中で呟いた言葉は、当然彼女に聞こえるわけもなく……。
「よかったぁ~!」
曇った表情は一転し、はじけるような笑顔で彼女の顔が輝いた。
胸がチクリと痛む。
ごめんなさい――心の中で謝っていることなど彼女は知る由もない。
「じゃあ、お願いね」
私の返事も待たずに彼女は紙袋を手渡すと、来た時と同じように颯爽と去っていってしまった。
そんなに重いはずはないのに心と連動したかのように、その紙袋はずっしりと私の右手に重圧をかけた。
重い足取りでクラスへと向かう。
どうして受け取ってしまったのだろう、と今更ながら後悔している。
桐谷倭斗――またの名を、鉄仮面の貴公子。
あまり感情を表に出さないことからついたあだ名。
入学初日にファンクラブが結成されたと、風の噂で聞いたことがある。
彼女たちの監視の目は厳しく、少しでも彼と親しく話そうものなら体育館の裏に呼び出され……というのはさすがにウソだろうけど、彼女たちは常に目を光らせ、彼を独り占めしようとする者には容赦ないと聞く。
それでも彼と親しくなろうと、理由をつけて近づく者たちは後を立たない。
私は『住む世界が違う人種』に分類しているので、目の保養程度にしか思っていないし、高校に入学して七ヶ月が経過しようとしているけど、彼とはあいさつしかしたことがない。
そんな彼に、忘れ物を届ける役目を安請け合いしてしまった自分を呪う。
教室の前まで来ると一度立ち止まった。
大きく息を吸って一気にそれを吐き出してから、ガラリと教室のドアを開けた。
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