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教室の中はいつもと変わらず雑然としている。
お目当ての人物の姿を探すも、教室の中には見当たらない。
まだ来ていないのか……と思った時、背後から刺々しい声が刺さる。
「邪魔」
出入り口で仁王立ちしている自分にも非はあるけど、そんな言い方はないだろうと振り向いたそこに探し人がいた。
「あ、桐谷倭斗」
言ってから、しまったと思ったがすでに遅く、ジロリと睨みつけられる。
このクラスには『きりたに』が二人いる。
『住む世界が違う人種』である桐谷倭斗はフルネームで、『同じ世界で生きている人』だと思われる霧谷颯太は『きりたに君』と、いつの頃からか自分の中で呼び名が決められていた。
だから、フルネームが思わず口から出てしまったのだけど、そんな事情を彼が知るはずもなく、普段口をきいたこともない相手からフルネームで呼び捨てされれば、誰だって気分を害するだろう。
が、わざわざ説明する義理もないので、咳払いで誤魔化す。
「ゴホッ……、え~と、きりたに君」
改めて名前を呼ぶと、桐谷倭斗の後ろからもうひとりの『きりたに君』がひょっこりと顔を出した。
「何?」
不機嫌さを前面に出してくる桐谷倭斗とは裏腹に、周りにキラキラ光る銀粉でもまき散らしているかのようなニッコリ笑顔の『きりたに君』が返事をしてくれた。
なんていい人。
でも、残念なことにこっちの『きりたに君』ではない。
よくよく見れば彼もそれなりにいい造りをしている。
残念なことに、桐谷倭斗の隣ではその造作もかすんでしまうけど、桐谷倭斗の鋭いまなざしに一瞬怯んでしまった私には、霧谷くんのキラキラ笑顔は天使の笑顔さながらの効果があった。
おかげでなんとかその場に踏みとどまることができた。
「あ、えっと、倭斗……くんのほう」
すると違う『きりたに君』はチェッと残念がったが、肝心の『きりたに君』はあからさまに嫌な顔をした。
尻込みするも、ここで引き下がるわけにはいかない。
ぶしつけに桐谷倭斗に紙袋を差し出した。
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