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その言葉は、明確に私と桃李君の間に線を引いた。
「先輩……」
「え?」
「先輩って、呼んだ方がいいのかな……桃李君のこと」
「愛梨……」
困ったように、知佳ちゃんは笑った。
「私はどっちでもいいと思うけど……でも、そう呼んだ方がああいうふうに言われることは減るかもね」
「そうなの……?」
「まあ、三年生の先輩を下の名前でそれも君付けで呼んでたらどうしても悪目立ちはしちゃうよね」
「そっか……」
同じ学校に通うってことは、こういうこともあるんだと、改めて思い知らされた。
ただ桃李君と……先輩と同じ学校に入りたかっただけなのに……。
「先輩……」
声に出してみると……その言葉は、ずっとずっと桃李君を遠くに感じさせた。
ピピーッと監督の笛が鳴る。コートの中で走り回っていた先輩たちが一斉に私たちの方へと向かってきた。
「お疲れ様ですー。飲み物そっちにあります」
「ありがとー!」
ほかの部員の人は飲み物を取りに来たけれど、桃李君の姿だけがない。
「あれ……?」
辺りを見回すと……あの日と同じように入口のところにいた女の先輩たちと話す桃李君の姿が見えた。
「…………」
「あ、妹ちゃん」
私の視線に気付いたのか、桃李君がこちらを振り返った。
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