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チラッと先輩たちの方を見ると、何か言いたげに、でも特に何を言うでもなく、桃李君に手を振ると体育館から去って行った。
――あの日から少しずつ、桃李君ではなく先輩と呼ぶように心がけていた。
あの先輩たちから言われたのもあるけれど……マネージャーになった以上、一人だけ名前で呼んでいたら不自然だ。……お兄ちゃんのことはお兄ちゃんって呼んじゃうけれど、それは許してくれると思いたい。
「……今の、なに」
「っ……」
でも、桃李君は私の言葉にあからさまに不機嫌そうな表情を見せた。
「聞き間違えかな? 今なんて言った?」
「え……」
「さっきは他のやつらがいたからかなって思ってたけど、妹ちゃん俺のこと……」
「――桃李、監督キレてるから」
「ちょ、光!!」
何か言おうとした桃李君を――タイミングよく現れたお兄ちゃんがコートへと引きずって行った。
「……びっくりした」
私の言い方が不自然だったんだろうか。
もっと、もっと自然に……。
でも、なんとなく――他の先輩を呼ぶように、桃李君を先輩とは呼べない、呼びたくない自分がいた……。
あの日から……私が先輩と呼びかけるたびに、桃李君は不機嫌そうに返事をした。
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