「普通」なんかない

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「最近、暗いよね。大丈夫?」  営業の数人で飲みに来た席で、仲条課長が話しかけてきた。友沢は苦笑しながら曖昧にうなずいてみせる。付き合いだと思って飲みには来たけれど、もうしばらく飲み過ぎは勘弁願いたい。 「そういえばさ、経営企画課の鈴木くんって、友沢くんの先輩なんだって?」  唐突に出た名前に、友沢は目を白黒させた。その本当の理由など、仲条に分かりはしない。ええまあと肯定すると、仲条は一人で納得しながらうなずいている。 「いい男よねえ。あ、実は同期なんだけど。私が課長になれるかどうか悩んでた時、後押ししてくれたんだよね。仕事には男も女も関係ないって」 ――仕事には、ね。  心の中で思いながら、友沢は仲条に相槌を打った。 「なんか色々あったのかな、よく知らないけど、ここんとこ大変だったみたいなのね。何があったかとか、本人に詳しく聞いたわけじゃないから分からないけど」  恐らく、その「大変だった」ことの原因は友沢だろう。当の本人が目の前にいるとは思いもしない仲条は、鈴木のことを尊敬したと続けた。     
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