「普通」なんかない

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 友沢が鈴木のマンションの部屋に入るのは、三回目だ。最初は、栄子が好きだった時。鈴木に頼んで、栄子をきつく振ってもらった。マンションの下で鈴木が男の肩を抱いて帰宅したのを目撃したこともあった。部屋に上がった二度目は、鈴木に押し倒された。そして、今日が三度目。ガラス製の大きな自動ドアをくぐる友沢の顔に迷いはなかった。 「本当に来たのか」 「はい。お邪魔します」  綺麗に片付いている鈴木の部屋には、前と同じようにジャズピアノが静かに流れていた。ブラウンのおしゃれなスピーカーも、埃のついていないシンプルな棚も、みんな見覚えがある。 「何、飲む?」  鈴木がキッチンカウンターから声をかけてくる。何でもいいですと答え、友沢は壁際のソファに気がついた。そういえば、前はなかった。真新しいベージュのソファは二人掛けで、まるで元からこの部屋用にあつらえてあったかのように馴染んでいた。 「ソファ、買ったんですね」     
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