「普通」なんかない

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「ちょちょちょちょーっと待ってください、落ちついて先輩」 「好きな相手が俺を受け入れてくれるって言ってるのに落ちついてなんかいられるか」 「そっ、それは……いやでもちょっと待って、ね、先輩待ってください、俺まだそこまでは覚悟できてません!」 「大丈夫。初めてなんだろ、優しくしてやる」 「そういう問題じゃなくて! 物事には順序ってもんがあるじゃないですか、付き合うにしたってデートして、飯食って、それからキスとか……エッチはその後でしょ。先輩、手順を飛ばし過ぎですよぉ」  友沢がそう言うと、鈴木は我に返って息を飲んだ。手のひらで顔をぬぐい、大きく深呼吸をする。そして体を起こし、友沢から離れた。 「そうだよな」  改まった調子で言い、神妙な顔つきになる。 「馬鹿だ、俺。ごめん」 「先輩……」 「つい浮かれて」 ――なんですか、その可愛いの。  床に正座し、両手で顔を覆い、鈴木は体を小さくしてうなだれている。こんなに感情が上がったり下がったりしている鈴木を見るのは初めてだった。 「先輩、ね、顔上げてくださいよ」  友沢も床に下り、鈴木の近くに座り込む。顔をのぞきこむと、鈴木がちらっと視線を向けた。そのおでこにちゅっと口づけ、友沢はにっこりと笑った。     
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