「普通」なんかない

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「先輩って不器用ですよね。そゆとこ、好きです」 「友沢」 「デート行きましょうよ。また映画行きたいな、俺。そんで飯食って、酒飲んで……楽しみっす」  鈴木の頬が紅潮し、目が見開かれる。 「いいのか、本当に、俺と、その」 「……はい。付き合ってください」 「友沢ぁ」 「ああもぉほら、そんな顔しないで」  泣きそうな顔で崩れ落ちる鈴木を、友沢はぎゅっと抱きとめた。 ――この人をもっと知りたい。もっと好きになりたい。  一方通行だったトライアングルは、矢印があっちへ向いたり、こっちへ向いたり。そのうちの二本が向かい合って、はじき出されるのは自分しかない。そのはずだった。自分は、変だから。普通じゃないから。  でも。  「普通」なんかない。誰も、「普通」なんかじゃない。  それ以上に、もうそんなことはどうでもいいとすら思えた。友沢の笑顔がここにある。自分のそばに。鈴木には、それだけで充分だった。 「今日は先輩の色んな顔見られて嬉しいっす」 「俺も、嬉しい」  床に座ったまま、二人は額をくっつけ合って笑った。鈴木は、こんな素直に笑えたのは初めてかもしれないと思った。
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