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――なに一人でジタバタしてんだ、この人。
友沢は、目の前で天を仰いだり首を傾げたり笑ったり白目むいたりしている「鈴木先輩」を恐る恐る観察した。
深夜のオフィスで残業中、もうそろそろいい加減に終わりたい、帰りたいと思いながら仕事をしていたら、鈴木先輩が差し入れを持って来てくれた。他部署なのに、なんていい人なんだ。いつも世話してくれて優しいな。と思ったところへ、何の脈絡もなく唐突な告白。『好きなんだ、お前が』。そんなことを言われても、脳味噌が理解を拒否する。意味が分からない。相手の気持ちを測りかねて、友沢は嘆息した。
「冗談、ってことでいいすか」
「いや……!」
必死な視線を投げてくる鈴木に、友沢は顔をしかめた。
「マジなんすか」
鈴木は眼鏡の奥で目を泳がせ、それから小さくうなずいた。その頬が少し赤らんでいるようにも見える。夜のオフィスは節電で薄暗く、友沢のデスクのパソコンだけが白く輝いている。だからそれは自分の思い違いかもしれない。そう思っておこう。友沢はもう一度ため息をついた。
「あー……すんません、ちょっと、それはないです。俺、フツーなんで」
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