「幸せになってください」

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「幸せになってください」

 夏休みを二週間後に控えたその日の放課後、私は担任の皐月先生に呼び出されていた。  理由は――。 「お前な、なんで俺の数学だけこんな点数なんだ?」 「すみません……」 「他の教科はいいのに……」  皐月先生はため息をついた。  机の上に並べられた中間テストの成績を見て、最下位すれすれな数学の順位に泣きたくなる。 「このままじゃ卒業できないぞ」  皐月先生はもう一度ふかーいため息をつきながら言った。 「学年末で一つでも赤点があれば、進学が決まっていても卒業させてやれないんだぞ」 「ええー! そんなの酷い!」 「酷いのはお前の点数だ。……そこでだ、奥村のこの状況はさすがにまずいので特別授業をしてもらうことにした」 「特別授業……?」 「ああ。――藤堂先生」  皐月先生の言葉に、私たちの後ろに座っていた誰かがこちらを向いた。 「知っているか? 藤堂先生」 「いえ……」 「そうか。まあ、お前らの学年は担当してないからな。春に新任の紹介で挨拶があったけど覚えてないか?」  新任……。そういえば、若い先生がいたような気もする。……でも、その藤堂先生がどうしたというのだろう。  そんな私の心の声が聞こえたかのように、皐月先生は続けた。     
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