となりの西田さん

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 朝、玄関を出て会社に向かう。四月の空はまぶしいほどの日差しで、これから出勤する私のモヤモヤした気持ちとは裏腹に晴れ渡っていた。 「おはようございます」  西田さんの家の前では、植木鉢に赤白黄色と色とりどりの小さな花が咲いていた。  その花たちに、優しそうなおばあちゃんがじょうろで水をあげている。このひとが、今日の西田さんというわけだ。 「あらぁ、尚子ちゃんおはよう。良い天気ね。これからお仕事?」 「はい」 「ついこの間まで学生だったはずなのに、尚子ちゃんももう社会人なのね、早いわねぇ」  私も歳を取るはずよねぇ、とほほに手を当てて西田さんがボヤいた。 「まだ研修中でわからないことばっかりですけど」 「やぁねぇ、最初なんてそんなものよ。尚子ちゃんは頭が良いんだから、自信もって! あ、そうだ尚子ちゃん。今日ね、大根の漬物がいい感じに出来たのよぉ、持っていかない?」 「せっかくですけど、これから会社なので、漬物はちょっと」 「あら、そうよねー! 私ったらうっかりでもう。あとでお母さんに届けておくわね」  西田さんは早口に言うと、ふふっと笑って手を振った。 「それじゃあ、いってらっしゃい。お仕事頑張ってね」 「ありがとうございます。いってきます」  西田さんに見送られ、住宅街のちょっと狭い路地から大通りに出て最寄り駅に向かう。通りから一本外れたこの辺りは道路の騒音に悩まされることもない、住みよい場所だ。私はこの家が気に入っている。
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