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小さな恋
「ママ、わたし、これにする」
小2の娘が選んだバレンタインのお菓子ははチョコブラウニー。
ぶっつけ本番は怖いからと、試作品を何度か作った。
電車に乗って、となり町のデパートまでラッピングを買いに行った。
選んだのは星柄のリボン。ラッピング用と髪を結ぶためのもの。
「Mくんはナッツがダメ、アレルギーなんだ。だから、かわりにマシュマロを入れよう」
真剣にチョコを削り、湯煎で溶かす。薄力粉をふるう手つきも堂に入ったものだ。
焼き上がったブラウニーは、ラッピングの本を見ながら自分でリボンをかけていた。
けれどもバレンタインデー当日、彼女はしょんぼり帰ってきた。
「Mくん、カゼで休んでた」
ラッピングとおそろいの星柄のリボンを編み込んだお下げ髪がうなだれている。
「じゃあ、家まで届けたら?」
「行きたいけど、熱、つらいかなあと思って」
「聞いてみたらいいよ」
ドラえもんの生まれる22世紀まで待たなくても、便利な道具はたくさんあるのだ。
どこでもドアは無理だけど、MくんのママにスマホでLINEだ。
「大丈夫みたいだよ。車で送ってあげる」
娘はあわててメッセージカードに『早くよくなってね。』と書き足した。
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