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「あ、透!」
まだそこまで親しくなっていないのに、昔からの友人のように屈託のない笑顔で僕に手を振る次郎。
「いい出来前なんだ、見てくれ。」
次郎が箱に入った菓子を見せようとするのをいったん止める。
「あとでじっくり見させてもらう。ちょっと緊急事態なんだ!」
僕は次郎に佳乃さんの元婚約者について話すと、ええ!と声を上げた。
「えっと、佐太郎坊ちゃん、そんな手紙送ったの?!」
でもな・・・。次郎は少し口ごもっている。
「何が、でもな、なんだ!」
話を聞くと佐太郎と佳乃さんは小さいころからの仲で将来結婚することは決まっていたのだけれど、佳乃さんの家が没落し、華族としての価値が少しもないどころか、身内になれば損害を被るかもしれないと判断した佐太郎の兄が二人の結婚を破談にしたらしい。このとき、気弱で家族の中で一番存在の薄い佐太郎はどれだけ言っても聞いてもらえなかったそうだ。そしてただ受け入れることしかできなかった佐太郎は破談した日からいつか佳乃さんを迎えに行けるように自分で事業を立ち上げ成功してこの状況になったのだろう・・・ということだ。
「佐太郎坊ちゃん変わったもんな、あんな気弱で家族で一番存在薄かったのに。今ではそんな姿微塵も見せないんだもんな。」
「いや、次郎はどっちの味方なんだよ。」
今の話を聞くと、とても気の毒だがだからといって佳乃さんを返すつもりは全くない!佐太郎は本気だ、本気で佳乃さんを取り戻したいからこそこんなに頑張れて変わったのだから。
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