佳乃さんの婚約者

9/37

148人が本棚に入れています
本棚に追加
/241ページ
「恋・・・。」 そう呟く佐太郎さんに、私は笑顔を返した。 「あの時の気持ちはなんだろう・・・。桜がね長い冬が終わり固いつぼみをゆっくり開いていく感じに似ているの。雪が解けて私の心に春を、透さんが持ってきてくれたんです・・・。」 「それでも!・・・俺は君を忘れた日はない。」 佐太郎さんは私の肩を強く掴んだ。痛い・・・そう言いたかったけれど彼の表情を見る何も言えなかった。 「お願いだ、佳乃。俺には佳乃が必要なんだ。佳乃がいるから俺は頑張れるしここまで来れたんだ。・・・雪下透は俺なんかと比べ物にならないくらいいい男なのは分かる。だけど、俺は佳乃に対する気持ちはあいつには負けていない。」 「でも佐太郎さん・・。」 「佳乃を俺は必ず幸せにするから。佳乃だけを愛するから。今度はもう佳乃を悲しませないから。・・・だから俺のところに帰ってきてくれ。」 頼むと頭を下げた佐太郎さんの手は震えていた。
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

148人が本棚に入れています
本棚に追加