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佐太郎は雪下の家から自分の住まいに戻る途中、苛立ちが止まらなかった。
あの時、佳乃を手放してしまった過去の自分をぶん殴りたいのはもちろんだが、佳乃が雪下透の顔を見たとき心からの笑みを浮かべていた事実を受け入れたくなかった。
俺と結婚できずに悲しんでくれていなかったのか?
ずっと俺のことを想って待ってくれているんじゃないかって、勝手に思ってたし、思ってほしかった。
なのに、佳乃はもう自分の知らない世界で自分の幸せを掴んでいた。
佳乃はどんどん雪下透との何気ない日々でさえも色濃くしていくのに・・・俺のことはどんどん忘れていってしまうんだ。
「ねえ、あなた、宮原佐太郎さん?」
佳乃とは全く反対の印象を持つ女性が俺の行く手を遮った。・・・佳乃以外、令嬢と交流がなかった俺は初対面で俺の名前を知る彼女に警戒する。すると彼女は手をひらひらさせ、艶やかに笑った。
「あなたにひどいことはしないわ。・・・どっちかというとあなたの味方よ?」
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