148人が本棚に入れています
本棚に追加
/241ページ
佳乃さんの婚約者
手紙は季節の挨拶から始まってとても長い手紙だったが簡単に言うとこう書いてあった。
「佐々木佳乃を返していただきたい。」
「透。これはどういうことだ?」
父さんは怒っていないが厳しい視線を僕に向ける。
「・・・。」
「言わなきゃ分からないだろう。」
僕は橋本のように口がうまくない。だからこれから説明することはもしかしたら佳乃さんを傷つけることかもしれない。僕はそれが嫌だった。
「僕が佳乃さんにひとめぼれしたんです。お嬢様ではない、佳乃さんに。そして、はしも・・・いや栄治君にお願いしてお見合いの席を設け結婚まで大急ぎでやったのです。僕の独断です。佳乃さんの家が没落して、佳乃さんにあったお見合い話も破談になったことを知ったうえで僕は結婚しました。父さんと母さんに気付かれないようにしたことは謝ります。」
僕は深く深く頭を下げ、畳に額をこすりつける。
「ですが佳乃さんは元婚約者のところになんか返しません。」
最初のコメントを投稿しよう!