悪夢

5/18
前へ
/40ページ
次へ
理人は大きなため息をつくと、食事を始めた。 「幸せが逃げるぞ」 父は刻みネギをのせた冷奴と味噌汁を持ってきながら、茶化すように言う。 「そんなの迷信だろ」 理人が切り捨てるように言うと、父はあからさまに嫌そうな顔をした。 「そんなことより、お前は将来どうするつもりなんだ? 今から資格のひとつやふたつ、あった方がいいんじゃないか?」 都合が悪くなると、父はいつもこの話をしたがる。 (毎度毎度、馬鹿の一つ覚えみたいに言いやがって……) 理人は舌打ちをすると席を立ち、2階にカバンを取りに行く。 「おい理人! まだ食べ終わってないだろ!」 父は声を荒らげるも、追いかけようとはしない。 カバンを取った理人は、家を出た。 「ったく、口だけジジイが……」 イラつきも手伝い、理人は早歩きで学校に向かう。途中でコンビニに寄ると、ゼリー飲料を買った。 教室に入ると、朝練を終えた親友である多田野芳樹(ただのよしき)が下敷きをうちわがわりにしている。ハンドボール部に所属している彼は、いつもはやくに教室にいる。 「お、おはよ。理人にしちゃはやいんじゃないか?」 芳樹は人懐こい笑顔で片手を上げる。 「おはよ。まーたクソ親父が将来がどうとか言ってたから、はやく出てきた」 理人は窓際から2列目にある自分の席に座ると、ゼリー飲料を飲み出した。 「そう煙たがってやるなよ。子供の将来を心配するのは、親の役目なんだから」 悪態をつく理人を、芳樹は苦笑しながらなだめる。 「へいへい、反抗期で悪かったね」 「心がこもってないぞ……。でもま、朝からその手の話は嫌だろうな」 芳樹はカバンの中をあさりながら言う。 「朝からが特にうぜーけど、んな話はいつされてもうぜーよ……」 理人は飲みつくしてぺたんこになったゼリー飲料のパッケージを、ゴミ箱に向かって放り投げた。 パッケージは壁に激突してから、ゴミ箱に入った。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加