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理人は大きなため息をつくと、食事を始めた。
「幸せが逃げるぞ」
父は刻みネギをのせた冷奴と味噌汁を持ってきながら、茶化すように言う。
「そんなの迷信だろ」
理人が切り捨てるように言うと、父はあからさまに嫌そうな顔をした。
「そんなことより、お前は将来どうするつもりなんだ? 今から資格のひとつやふたつ、あった方がいいんじゃないか?」
都合が悪くなると、父はいつもこの話をしたがる。
(毎度毎度、馬鹿の一つ覚えみたいに言いやがって……)
理人は舌打ちをすると席を立ち、2階にカバンを取りに行く。
「おい理人! まだ食べ終わってないだろ!」
父は声を荒らげるも、追いかけようとはしない。
カバンを取った理人は、家を出た。
「ったく、口だけジジイが……」
イラつきも手伝い、理人は早歩きで学校に向かう。途中でコンビニに寄ると、ゼリー飲料を買った。
教室に入ると、朝練を終えた親友である多田野芳樹が下敷きをうちわがわりにしている。ハンドボール部に所属している彼は、いつもはやくに教室にいる。
「お、おはよ。理人にしちゃはやいんじゃないか?」
芳樹は人懐こい笑顔で片手を上げる。
「おはよ。まーたクソ親父が将来がどうとか言ってたから、はやく出てきた」
理人は窓際から2列目にある自分の席に座ると、ゼリー飲料を飲み出した。
「そう煙たがってやるなよ。子供の将来を心配するのは、親の役目なんだから」
悪態をつく理人を、芳樹は苦笑しながらなだめる。
「へいへい、反抗期で悪かったね」
「心がこもってないぞ……。でもま、朝からその手の話は嫌だろうな」
芳樹はカバンの中をあさりながら言う。
「朝からが特にうぜーけど、んな話はいつされてもうぜーよ……」
理人は飲みつくしてぺたんこになったゼリー飲料のパッケージを、ゴミ箱に向かって放り投げた。 パッケージは壁に激突してから、ゴミ箱に入った。
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