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「待ってなんていないよ。それで、話って?」
理人はできるだけ穏やかな笑顔を心がけながら、早々に本題にいくように促した。ユカリは俯き、ため息で珈琲を揺らす。
「私、結婚するの……。悪いんだけど、理人くんにはここを出て行ってもらわないと、困るの……」
ユカリは気まずそうに目線を宙にさ迷わせたあと、珈琲をひと口飲む。マグカップを持つ手は、震えている。
(まさか、こんな女が存在するとはな……)
理人は心の底からユカリを賞賛した。
「そうか、結婚おめでとう」
「え?」
理人の素直なお祝いの言葉に、ユカリは素っ頓狂な声を出す。
「なんて顔してるんだ。俺が祝ったらおかしい?」
「急にこんな話したら、怒ると思ったんだけど……」
ユカリは未だに気まずそうな顔をしている。それがおかしくて、理人は笑った。
「怒るわけないだろ? むしろ感謝してるよ。ユカリのおかげで、少し希望が見えた気がする」
「希望?」
思ってもみない言葉に、ユカリは怪訝な顔をする。
「俺とこういう関係を持った女達は、みんな俺を恋人と勘違いするか独占したがるかで困ってたんだ……。ユカリみたいに俺とは遊びだって、ちゃんとわきまえる女は初めてだ 」
そう言って珈琲を啜る理人に、ユカリは難しい顔をした。
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