悪夢

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小学5年生の時に理人は母に性的虐待をされ、それから両親は離婚、現在は父とふたり暮らしをしている。高校2年生になった今でも、あの日のことは悪夢として彼を苦しめ続ける。 顔をあげれば、カーテンの隙間から光が零れ落ちている。時計に目をやると、6時過ぎ。 「……ちくしょう」 理人は小声で悪態をつくと、制服と下着を持って浴室へ行って汗を流した。 台所に行くと、父が朝食を用意している最中だ。 「おはよう、理人」 「……おはよ」 理人は渋々挨拶をするといつもの席に座って、既についているテレビに目をやる。テレビから流れたニュースは、父親が娘を強姦したという悲惨なものだ。 親近相姦のニュースで思い出してしまうのは、やはり母のこと。 「人の皮を被った(けだもの)が」 理人は忌々しげに言うと、テレビを消した。 「あ、こら。消しちゃダメだろ」 台所からご飯と鮭の塩焼きを持ってきた父は、テレビをつける。ニュース番組が知らせてくれるのは、有名人が飲酒運転で捕まったこと。 「……時計あんだろ」 理人は壁にかかった大きめのデジタル時計を指さした。 「話のネタにニュース番組は必須なんだよ」 「他に話題ないのかよ」 「大人には大人の話題があるんだよ」 父は台所に戻り、リズムよく何かを刻み始めた。 理人はなんとなく、父を眺める。45を過ぎてシワと白髪が増えているが、それを劣化と思わせない。むしろ、シワと白髪が大人の男としての色香として活きている。 今頃刑務所にいるであろう母も、美しかった。そんなふたりの間に生まれた理人も、高校生とは思えない色気がある。 (なんでこんなのに産まれたかね……) 理人は自分だけでなく、ふたりの容姿も恨んだ。もしふたりがどこにでもいるような顔だったら、自分も普通の平凡な顔に産まれて、今も普通の家族として幸せに暮らせていたかもしれない。母も自分を性的な目で見なかったかもしれない。
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