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「それだけじゃ腹減るだろ。よかったら食えよ」
芳樹は理人の机に、コンビニのおにぎりをひとつ置いた。彼は朝練のあとに、おにぎりを食べるのだ。
「サンキュ。……って、明太かよ……。チェンジ」
理人は芳樹に明太おにぎりを押し付けるように返した。
「あぁ、明太ダメなんだっけな。もうひとつは昆布だけど」
「レパートリー年寄りくせぇな……。ま、いいや。昆布なら辛うじて食える」
ん、と理人は手を伸ばす。
「お前なぁ、それが恵んで貰ってる人の態度かよ……」
芳樹は呆れ返りながらも、昆布のおにぎりを理人に渡した。
「どーも。感謝はちゃんとしてるぞ」
おにぎりを受け取った理人は、芳樹に手を合わせてからおにぎりを食べ始める。
「そーかい……」
芳樹はあたたかい目で、おにぎりを食べる理人を見る。
「なぁ、理人。学校卒業したらどーすんだ?」
芳樹が質問をすると、理人は眉間にシワを寄せた。
「親父みたいなこと言うなよ」
「そういう話じゃなくてさ、卒業したら家出てくのかって」
質問の意図を理解した理人は、難しい顔をしてうーんと唸る。
「気持ち的には出ていきたい。けどよ、校則でバイトできないから今から貯金できねーし……。なにより家事はほとんど苦手だしなぁ……」
理人が見上げてため息をつくと、芳樹は笑った。
「料理は壊滅的だもんな」
「うっせ……」
理人がバツが悪そうに言うとチャイムが鳴り、教師が入ってきた。
(……めんどくせ)
教壇に立つ気難しそうな顔つきの男性教師をちらりと見ると、理人は机に突っ伏した。
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