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からりとした、真っ青な空に楓が映える朝の5時。
毎朝行われるこの寺院の僧侶の集会をサボって、裏庭で、あの人は煙草を吸っていた。
「サボっちゃダメですよ、蓬来様」
集会中、下っ端の仕事である寺院内の掃除をしながら、あの人を見つけた俺は、箒を持ってあの人、蓬来の元に行った。
「おや、江暝にバレてしまいましたか」
ハハハッ。と、蓬来は笑った。
蓬来は、不思議な人だ。
具体的に挙げるとキリがないが、中でも不思議な事は、この蓬来が、そこそこ高位の僧侶である事だ。そして、その高位な僧侶が、俺の様な口の悪い下っ端と平気で喋る上、自身の弟子にしてしまう事だ。
俺は、そんな蓬来を、師として尊敬していた。
蓬来は、空を見て言った。
「仕方ありませんよ。今日は、一服日和ですから。こういう空気の澄んだ日程、煙草が美味しい日はありません」
「毎日一服日和じゃねぇですか、あんたは」
「ハハハッ」
「ちょっと……」
蓬来は、笑って立ち上がると、俺に背を向けた。そして、そのまま言った。
「何かに、縛られすぎてはいけませんよ。貴方らしさを失っては、立派なお坊さんにはなれませんからね」
と、蓬来は去っていった。
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