事件

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事件

 川に辿り着いた将軍は、溺れている人を発見する。  きれいな着物を着た小娘だった。  なぜあんなところで溺れているのか。そんな疑問を浮かべるよりも先に、助けないと、と思い近くにあった長い棒を掴んで、目一杯腕を伸ばし小娘に掴ませようとするが、届かない。  縄がないか探すが、見つからない。  家来の忠告を無視し、将軍は着物を脱ぎ、褌(ふんどし)姿になり、勢いよく川に飛び込んだ。  その瞬間、将軍は思い出した。  自分が、かなづち、であることを。  学術。剣術。弓術。馬術。あらゆることができる将軍ではあったが、1つだけできないものそれは、水術、であった。  しかし、小娘を助けたい一心で、将軍は不格好ながらも小娘のところまで辿り着き、小娘を抱く。  だが、小娘のところまで行くのに精一杯な将軍が、その小娘を抱えて岸まで泳げるはずもなく、次第に力尽きた小娘の道連れで、将軍もろ共、川に沈んでしまう。  将軍は沈んでしまう前に、勢いよく空気を吸って、いつだか書物で学んだ、心肺蘇生法を行うために、小娘が酸欠状態にならぬよう、小娘の口に将軍の口を合わせ空気を送った。  つまり、川の中で人工呼吸をしたのだった。
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