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民声
今回はだんご屋に赴いた。何でも、ここは最近できただんご屋で、城内でも話題に上がっていたため、訪れたい店の1つであった。
将軍が入店すると、賑やかだった店内が一気に静まり返った。
だんご屋の店主が将軍に「今日は一体、何のご用件で?」と恐る恐る伺った。
「いやあ、ここのだんごが美味いと城内でも有名でな、一度は来てみたいと思って。親仁(おやじ)だんごを」
親仁の子であろう娘が、3個連なった焼きだんごとお茶を持って来る。
お茶を啜り、焼きだんごを一口だべる。
口いっぱいに広がる香ばしい匂いが鼻から抜け、焦げ目がパリッと音を立て、だんご自体は舌触りが滑らかなほど良い触感で、最高の1本だった。
その様子を平民たちはじっと見つめていた。
「親仁、これは美味いな。でもなあ、こんなに見つめられていたら、食べづらい」
「そう言われましても、将軍様」
将軍もこういう状況になることは分かっていた。いつもそうであるから。
将軍見たさに、店の周りには人だかりができている。
その様子を見ていた将軍は従えていた家来たちに耳打ちして「今日は、私の奢りだ。店外にいる人も、店に入って注文するがよい。親仁、私の家来を好きに使ってくれ」
そうは言っても口を開く者はいなく、将軍自ら近くにいた平民に「なんか食べたいものはあるか?」と訊いた。
その平民は小声で「ないです」と答える。
「本当にないのか?」と改めて訊くと、平民は黙って俯いてしまった。
「しょうがないなあ。じゃあ僕は?」と、その平民の子であろう、まだ生まれて年を数回跨いだくらいの小さな男の子に訊いた。
まだ男の子は将軍の偉大さが分からないため「だんご汁」と答えた。
その瞬間、隣にいた平民が慌てて男の子の口を押え「何ばかなこと言ってんだ」と将軍に頭を下げて、詫びを入れた。
「子どもは純粋でいい。親仁、この坊主にだんご汁あげて」
将軍の注文に「はい」と親仁は答え、男の子にだんご汁を与えた。
平民は「ありがとうございます」と何度も言いながら頭を下げ「大事に食べるんだよ」と子に言い聞かせた。
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