1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

 おじさんはズボンのポケットから小瓶を取り出した。中には一粒のカプセルが入っている。 「なんですかこれ?」 「これが、あなたの好きな女の理想の男に見える薬。このカプセルを飲ますか、カプセルに入っている液体を何かに混ぜて飲ませれば、あら不思議、あなたがたちまち理想の男に見えてくる」 「めちゃくちゃ怪しい薬じゃん。そういう話なら結構です」  男はその場を立ち去ろうとしたとき「本当に今のままでいいんですか?これさえ飲ませれば、好きな女はあなたのものになるんですよ」 「そんな話、信じられるか」 「信じられないのも無理はない。しかし、一度だけ試してみてもいいんじゃないんですか?死に至らすような薬じゃない」  男は生唾を呑んだ。 「分かった、試してみるよ」死なないのであれば、試すくらいなら、そんな軽い気持ちで、おじさんの言葉を呑んだ。 「賢明な判断です」 「それで幾ら払えばいい」 「本来なら、1粒10万円」 「10万円!無理に決まってるだろう」 「ですから今回はお試しということで、無料で差し上げます」  おじさんは小瓶を男に渡した。 「ありがとうございます」男は頭を下げた。 「いいですか、これだけは注意して下さい。薬の効き目は1週間。1週間を過ぎると、あなたはあなたに戻ってしまう。でも安心して下さい。1週間経つ前に、私を見つけさえすれば、次回から1粒10万で差し上げます」 「これを僕が好きな人に飲ませればいいんですね」 「はい」 「試してみます」  男は小瓶を鞄に入れ、おじさんから離れた。  おじさんは、男の背中を見送りながら、にんまりした。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!