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薬
おじさんはズボンのポケットから小瓶を取り出した。中には一粒のカプセルが入っている。
「なんですかこれ?」
「これが、あなたの好きな女の理想の男に見える薬。このカプセルを飲ますか、カプセルに入っている液体を何かに混ぜて飲ませれば、あら不思議、あなたがたちまち理想の男に見えてくる」
「めちゃくちゃ怪しい薬じゃん。そういう話なら結構です」
男はその場を立ち去ろうとしたとき「本当に今のままでいいんですか?これさえ飲ませれば、好きな女はあなたのものになるんですよ」
「そんな話、信じられるか」
「信じられないのも無理はない。しかし、一度だけ試してみてもいいんじゃないんですか?死に至らすような薬じゃない」
男は生唾を呑んだ。
「分かった、試してみるよ」死なないのであれば、試すくらいなら、そんな軽い気持ちで、おじさんの言葉を呑んだ。
「賢明な判断です」
「それで幾ら払えばいい」
「本来なら、1粒10万円」
「10万円!無理に決まってるだろう」
「ですから今回はお試しということで、無料で差し上げます」
おじさんは小瓶を男に渡した。
「ありがとうございます」男は頭を下げた。
「いいですか、これだけは注意して下さい。薬の効き目は1週間。1週間を過ぎると、あなたはあなたに戻ってしまう。でも安心して下さい。1週間経つ前に、私を見つけさえすれば、次回から1粒10万で差し上げます」
「これを僕が好きな人に飲ませればいいんですね」
「はい」
「試してみます」
男は小瓶を鞄に入れ、おじさんから離れた。
おじさんは、男の背中を見送りながら、にんまりした。
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